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『にんげんのおへそ』 高峰秀子
「ああ、デコちゃんか、懐かしい」 2010年8月11日(水)
『にんげんのおへそ』
- 高峰秀子
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- 文春文庫
- 467円(税別)
- 2001年10月発行
著者名を見て、「ああ、デコちゃんか、懐かしい」と思うのは、いったい何歳以上の人だろう。日本映画史を代表する大女優のひとりであり、名エッセイストでもある。
そんな大女優と岩手との関わりは、昭和16年(1941)に公開された映画『馬』(山本嘉次郎監督)にある。東北の寒村に住む、馬好きの少女を演じた。東北各地でロケが行われ、岩手もロケ地となった。映画には、盛岡市内の馬検場(その建物は今でもあります)や田沢湖線の大釜駅などが出てくるし、この地域の盆踊りである「さんさ踊り」も見られる。
著者は「馬よ」と題したエッセイの中で、撮影時のあれこれを回想する。感動的な映画の「こんな楽屋裏を公開してしまっては、折角のイメージが狂っちまう、かもしれないけれど」としながら、映画づくりの現場を臨場感あふれる文章で伝えてくれる。『馬』の楽屋裏については、『にんげん住所録』(文春文庫)の「クロさんのこと」というエッセイでもふれている。クロさんとは当時、山本監督の下で助監督をしていた黒澤明監督のこと。こちらも、しみじみとした名文である。ぜひ、あわせて読んで欲しい。