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『おふくろの夜回り』 三浦哲郎
しみじみ、静かに読みたい1冊 2011年7月26日(火)
『おふくろの夜回り』
- 三浦哲郎
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- 文藝春秋
- 1619円(税別)
- 2010年6月発行
このコーナーで以前、『ユタとふしぎな仲間たち』を紹介した。著者は二戸市金田一温泉に住み、両親が移り住んだ隣町の一戸町にも、たびたび帰郷した。昨年8月、逝去。本書は34年間にわたって文芸雑誌に寄稿した「身辺雑記」47編と新聞に掲載された1編を収めた随筆集で、生前最後の作品である。
ふるさとを思う話題も少なくない。どれも味わい深いが、「おふくろの夜回り」という1編がいい。著者の母親は、家族が寝静まった夜ふけに寝所をまわる。そして、「ひとしきり夜具の上に、ほた、ほた、というちいさな音を遠慮がちに残しただけで通り過ぎてゆく」のだという。「ほた、ほた」というのは、寝具を静かにたたいて、北国の夜気を追い出そうとするかすかな音。その夜回りは、東京にある著者の家にいるときも変わらなかった。東京は、そんなに寒くないのに…。
しみじみ、静かに読みたい1冊である。